経営者が元気なうちにすべき相続診断サムネイル画像

経営者が元気なうちにすべき相続診断

吉本亘

吉本亘

相続診断とは何をする?まずは“見える化”が目的

相続診断は「財産の棚卸し+論点の洗い出し」

相続診断は、いきなり節税策を決める作業ではありません。まずは、現状の財産・負債・契約(保険など)を棚卸しし、「誰が」「何を」「どう引き継ぐと困りそうか」を見える化します。たとえば不動産は評価や共有の影響、預金は名義と原資、保険は受取人、借入は連帯保証の有無など、同じ“資産”でも論点が違います。ここを整理するだけで、相続対策の優先順位が一気に明確になります。

経営者は“会社の引き継ぎ”もセットで考えるのがコツ

経営者の相続は、家族の生活資金だけでなく、会社の継続性にも直結します。自社株(非上場株式)や事業用資産が誰に渡るか、後継者が決まっているか、株式が分散した場合に議決権がどうなるか――こうした点は、税金だけ見ても答えが出ません。相続診断では、家族の希望と会社の意思決定を両立できる形を探すために、“争い”と“経営リスク”の芽を先に摘む視点が重要です。


相続税がかかるかは「基礎控除」を超えるかで変わる

まず押さえたい基礎控除の考え方(よくある勘違いも)

相続税は、すべての相続で必ず発生するものではありません。目安になるのが「基礎控除」で、課税価格の合計から一定額を差し引いて、残った部分に課税されます。基礎控除は 3,000万円+600万円×法定相続人の数 という考え方です。
実務では「相続放棄した人は人数に入らない」「養子を増やせば無制限に人数が増える」といった誤解が起こりがちです。法定相続人の数の数え方にはルールがあるため、“ざっくり試算”でも前提を揃えるのが大切です。

税額のざっくり試算は「①財産合計→②控除→③配分」の順で

相続税の計算は、まず各人の課税価格を合計し、そこから基礎控除を引いて課税遺産総額を出し、法定相続分でいったん按分して税率を当てはめる流れです。
ここで詰まりやすいのが、不動産や自社株など「評価がすぐ決まらない資産」が多いケースです。さらに、相続税の申告・納税には期限があり、分割がまとまらないと手続きが複雑化しやすい点も要注意です。 “正確な税額”は後で詰めるとしても、診断段階では「課税対象になりそうか」「納税資金は足りそうか」を把握するだけでも価値があります。

元気なうちにやると効果が出やすい準備

「分け方」を先に決める:遺言・株式・不動産の“割れやすいポイント”

相続で揉めやすいのは、金額よりも「分けにくい資産」が絡むときです。代表例が不動産と自社株で、共有にすると意思決定が止まりやすく、将来の売却や運用も難しくなります。経営者の場合、後継者に議決権を集中させたい一方で、他の相続人への配慮も必要になるため、早めに方針を言語化しておくと調整が進みます。遺言は“結論の押し付け”ではなく、家族が話し合うための土台として機能します。

「納税資金」を作る:手元資金・保険・役員退職金などを現実的に点検

相続税で意外に多い悩みが「税額そのものより、払う現金が足りない」問題です。不動産や自社株の比率が高いほど起こりやすく、いざという時に資産を急いで売ると条件が悪くなりがちです。診断では、手元資金の把握、生命保険の活用余地、会社からの資金移動(役員退職金の設計など)が“選択肢としてあり得るか”を点検します。細かな制度設計は個別事情で変わるため、まずは資金繰り目線で現実的にチェックするのがおすすめです。

相続診断の進め方:まずは週末にできる範囲から

30分でできる簡易チェック(これだけでも一歩前進)

相続診断は、完璧に作り込むより「最新版のメモ」を持つことが大事です。まずは①資産リスト(預金・不動産・保険・株式・借入)、②名義(誰の名義か)、③家族構成(法定相続人になり得る人)、④会社の現状(後継者候補・株主構成)を箇条書きで構いません。ここまで整理できると、次にやるべき論点(評価、分け方、資金、承継計画)が自然に見えてきます。「やることが多すぎる」を「優先順位がつく」に変えるのが診断の価値です。

実務で多い落とし穴:名義・評価・期限でつまずく

相続の準備で多いのが、「名義は親だけど原資は誰?」「不動産は売ればいいと思っていたが共有で動けない」「相続税の申告期限があり、分割がまとまらず慌てる」といったパターンです。相続税には申告・納税のルールがあり、状況によっては手続きが増えることがあります。 診断段階で“落とし穴の候補”を先に知っておくと、家族の話し合いも現実的になります。早めに全体像を掴むほど、選択肢を確保しやすくなります。

ポイント整理・よくある質問Q&A・まとめ

重要ポイント(相続診断で最低限押さえるところ)

  • 財産の棚卸し:預金・不動産・保険・株式・借入を一覧化
  • 分けにくい資産の有無:不動産、自社株、事業用資産が中心か
  • 課税の目安:基礎控除を超えそうか(ざっくり試算でOK)
  • 納税資金:現金で払えるか、資金化の手段があるか
  • 期限意識:申告・納税の流れで慌てない設計

よくある質問Q&A

Q1. 相続診断はいつ始めるのがベスト?
「元気なうちに」と言われるのは、早いほど選択肢が増えるからです。とはいえ、何年もかけて完璧に作る必要はありません。まずは棚卸しと、家族・後継者の方向性の確認から始め、状況(資産の増減、家族構成、会社の体制)が変わったら更新する、という運用が現実的です。

Q2. 相続診断は自分でどこまでできますか?費用は?
棚卸しや家族内の希望整理は、ご自身でも十分進められます。一方で、資産評価や制度の適用可否は前提条件で結論が変わるため、必要に応じて専門家に“論点チェック”だけ依頼する方法もあります。費用は依頼範囲(診断だけ/試算まで/遺言や承継計画まで)で大きく変わるので、まずは「何を決めたいか」を整理してから見積もると納得感が出やすいです。

まとめ

相続診断は、相続税の有無を確定させる作業というより、家族の分け方・会社の承継・納税資金の“詰まりポイント”を早めに見える化するための手段です。まずは棚卸しと簡易チェックから始めて、必要なら試算や制度確認へ段階的に進めるのが安心です。判断に迷う点が出てきた場合は、専門家に確認する選択肢もあります。

吉本亘
執筆者:吉本亘
吉本亘(よしもととおる)税理士法人ビジョン・ナビ所属。入社以来、税理士補助として中小企業・個人事業主の月次処理や決算・申告関連のサポート業務に携わる。数字を「経営判断に使える形」に整えることを意識し、実務の現場で起こりやすい勘違いやつまずきポイントを、わかりやすく整理して伝えることを重視している。現在は業務と並行して、事務所ブログの企画・改善にも取り組んでいる。

関連する他の記事をよむ