中小企業の社長と経理担当者が、賃上げ率・人件費・利益・資金繰りのグラフを確認しているビジネス向けイラスト。

春闘賃上げ率5.05%で中小企業はどう備える?人件費増加・利益・資金繰りを月次で確認するポイント

吉本亘

吉本亘

2026年春闘では、賃上げ率が高い水準で推移しています。連合の第5回回答集計では、平均賃金方式の加重平均で16,733円・5.05%、300人未満の中小組合でも**13,260円・4.81%**と公表されています。

大企業だけでなく、中小企業でも賃上げへの対応を意識せざるを得ない状況になっています。

一方で、社長や経理担当者の方からすると、

「賃上げは必要だと感じているが、どこまで上げられるのか分からない」
「人件費が増えたとき、利益がどれくらい残るのか不安」
「価格転嫁したいが、実際に資金繰りが改善するのか見えていない」

という悩みも出てくるのではないでしょうか。

賃上げは、単に給与を上げるかどうかだけの問題ではありません。給与、社会保険料、賞与、採用費、価格設定、粗利益、資金繰りまで一体で確認する必要があります。

この記事では、春闘賃上げ率5.05%というニュースを踏まえ、中小企業が人件費増加にどう備えるべきか、月次で確認したいポイントを整理します。

賃上げ率5%時代に、中小企業がまず確認したいこと

まず結論からいうと、中小企業が確認すべきなのは、**「賃上げできるか」ではなく、「賃上げ後も利益と資金繰りが回るか」**です。

賃上げを考えるときは、給与額だけでなく、次のような項目もあわせて見ておく必要があります。

確認項目 見るポイント
基本給・時給 どの従業員をどの程度上げるか
社会保険料 会社負担分も増える可能性がある
賞与 月給増加に連動して賞与水準も変わるか
採用・定着 賃上げが人材確保につながるか
粗利益 人件費増加を吸収できる利益があるか
価格転嫁 販売価格・顧問料・請求単価に反映できるか
資金繰り 支払い後に預金残高がどれだけ残るか

たとえば、月給を上げると、毎月の給与支払いだけでなく、社会保険料の会社負担や賞与、退職金、採用条件にも影響することがあります。

そのため、賃上げの判断では、給与明細だけでなく、月次試算表、資金繰り表、人件費率、粗利益率をあわせて見ることが大切です。

人件費増加は、利益だけでなく現金の残り方にも影響する

賃上げを行うと、損益計算書上は人件費が増えます。

ただし、実務で特に注意したいのは、利益が出ていても現金が残っているとは限らないという点です。

たとえば、売上が増えていても、入金サイトが長い、借入返済がある、税金や社会保険料の支払いが重なる、といった場合には、手元資金が思ったより残らないことがあります。

人件費増加を確認するときは、次の3つを分けて見ると整理しやすくなります。

1. 損益への影響

まず、人件費が増えることで営業利益がどれくらい減るのかを確認します。

売上が同じまま人件費だけが増えれば、利益は当然減少します。
そのため、賃上げ後も必要な利益を確保できるか、月次で確認しておく必要があります。

2. 社会保険料への影響

給与が増えると、健康保険料や厚生年金保険料など、会社負担分の社会保険料も増える可能性があります。

特に、昇給後の給与水準が標準報酬月額に反映されると、9月以降の社会保険料にも影響することがあります。賃上げ額だけで判断せず、会社負担分を含めた人件費総額で見ることが大切です。

3. 資金繰りへの影響

給与は毎月支払いが発生するため、資金繰りへの影響が早く出ます。

利益が出ていても、給与、社会保険料、税金、賞与、借入返済が同じ時期に重なると、預金残高が一時的に薄くなることがあります。

そのため、賃上げを検討する際は、少なくとも数か月先までの支払い予定を一覧にして、賃上げ後も資金が回るかを確認しましょう。

価格転嫁は「できたか」より「利益に反映されたか」を見る

人件費が増える中で、中小企業にとって重要になるのが価格転嫁です。

中小企業庁は、エネルギー価格・原材料費・労務費などが上昇する中、中小企業が適切に価格転嫁しやすい環境を作るため、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」としています。

ただし、価格転嫁で大切なのは、「値上げ交渉をしたか」だけではありません。

実務では、次のような確認が必要です。

  • 値上げ後の単価が実際に請求書へ反映されているか
  • 値上げによって粗利益率が改善しているか
  • 人件費増加分をどこまで吸収できているか
  • 値上げ後に受注数や解約率が大きく変わっていないか
  • 入金タイミングまで含めて資金繰りが改善しているか

たとえば、販売単価を上げても、仕入や外注費、人件費も同時に増えていれば、利益が思ったほど残らないことがあります。

また、値上げした月と入金される月がずれる場合、損益上は改善していても、資金繰り上はしばらく苦しい状態が続くこともあります。

そのため、価格転嫁は一度決めて終わりではなく、月次で「利益と現金に反映されているか」を確認することが重要です。

月次で確認したい5つの数字

賃上げへの対応では、感覚だけで判断しないことが大切です。

「周りも上げているから」「人が辞めると困るから」という理由だけで給与を上げると、後から資金繰りが苦しくなる可能性があります。

月次で確認したい数字は、主に次の5つです。

数字 確認する理由
売上高 賃上げ後も売上が維持・増加しているか
粗利益 人件費を支える利益が残っているか
人件費率 売上・粗利益に対して人件費が重すぎないか
営業利益 本業で利益が残っているか
預金残高・資金繰り 支払い後に現金が残っているか

特に、人件費率は重要です。

人件費率とは、売上や粗利益に対して人件費がどれくらいの割合を占めているかを見る指標です。業種によって目安は異なりますが、毎月同じ基準で見ていくことで、人件費の増加が利益を圧迫していないか確認しやすくなります。

また、賃上げ後は、月次試算表の作成が遅れるほど判断も遅れます。

「今月は利益が残っているのか」
「人件費が増えた分、価格転嫁できているのか」
「数か月後の支払いに資金が足りるのか」

こうした点を早めに把握するためには、経理処理を後回しにせず、月次の数字を見える化しておくことが大切です。

自社で整理しやすいケース・専門家に相談した方がよいケース

賃上げや価格転嫁は、会社ごとの状況によって判断が変わります。

自社で整理しやすいのは、次のようなケースです。

  • 月次試算表が毎月確認できている
  • 人件費、社会保険料、賞与を一覧にできている
  • 商品別・サービス別の粗利益がある程度見えている
  • 数か月先の資金繰り表を作成できている
  • 値上げ後の売上・利益の変化を確認できている

一方で、次のような場合は、一度専門家に確認した方が安心です。

  • 賃上げしたいが、いくらまで上げられるか分からない
  • 人件費率が高くなっているが、原因を整理できていない
  • 価格転嫁できているのに資金繰りが楽にならない
  • 月次試算表の作成が遅れている
  • 給与、社会保険料、税金、借入返済をまとめて見られていない
  • 社長の感覚だけで賃上げや値上げを判断している

賃上げは、人材確保や定着のために重要な経営判断です。

一方で、会社にお金が残らなければ、継続的な賃上げは難しくなります。だからこそ、賃上げを「コスト増」として見るだけでなく、利益と資金繰りを確認しながら、継続できる形に整えることが大切です。

よくある質問

Q1. 中小企業も春闘の賃上げ率5%をそのまま参考にすべきですか?

そのまま同じ率で賃上げする必要があるとは限りません。春闘の賃上げ率は世の中の流れを知る参考になりますが、実際には自社の利益、資金繰り、人材確保の状況、価格転嫁の可否を見て判断することが大切です。

Q2. 賃上げすると、社会保険料も増えますか?

給与が増えると、健康保険料や厚生年金保険料などの会社負担分が増える可能性があります。特に標準報酬月額に反映されると、毎月の社会保険料に影響するため、給与額だけでなく会社負担分も含めて確認しましょう。

Q3. 価格転嫁できれば、資金繰りは改善しますか?

価格転嫁できても、すぐに資金繰りが改善するとは限りません。値上げ後の入金タイミング、仕入や外注費の増加、人件費増加、借入返済なども関係します。月次で利益と預金残高の両方を見ることが大切です。

Q4. 賃上げ前に税理士へ相談する意味はありますか?

あります。賃上げ後の人件費、社会保険料、利益、納税額、資金繰りを事前に試算することで、無理のない賃上げ幅や価格改定の必要性を整理しやすくなります。

まとめ

春闘賃上げ率5.05%というニュースは、大企業だけでなく、中小企業にとっても無視しにくい流れです。

ただし、中小企業が大切にしたいのは、世の中の賃上げ率にそのまま合わせることではなく、自社にとって継続できる賃上げかどうかを確認することです。

そのためには、次の点を月次で確認しておきましょう。

  • 人件費がどれくらい増えるか
  • 社会保険料の会社負担分まで見えているか
  • 粗利益で人件費増加を吸収できているか
  • 価格転嫁が利益に反映されているか
  • 給与・税金・社会保険料・借入返済後に現金が残るか
  • 月次試算表や資金繰り表で早めに判断できているか

賃上げは、従業員の定着や採用力の強化につながる重要な取り組みです。一方で、利益や資金繰りを見ないまま進めると、会社の負担が大きくなりすぎることもあります。

ビジョン・ナビでは、税務申告だけでなく、月次試算表の確認、資金繰り、人件費の見える化、価格転嫁後の利益確認など、経営判断につながる数字管理のご相談にも対応しています。

「賃上げしたいが、どこまで上げられるか分からない」
「人件費が増えているのに、利益や現金が残っている実感がない」
「価格転嫁後の月次管理や資金繰りを見直したい」

このような場合は、自社の数字をもとに整理しておくと安心です。賃上げ後も会社にお金を残すための月次管理を整えたい方は、ビジョン・ナビまでお気軽にご相談ください。

 

吉本亘
執筆者:吉本亘
吉本亘(よしもととおる)税理士法人ビジョン・ナビ所属。入社以来、税理士補助として中小企業・個人事業主の月次処理や決算・申告関連のサポート業務に携わる。数字を「経営判断に使える形」に整えることを意識し、実務の現場で起こりやすい勘違いやつまずきポイントを、わかりやすく整理して伝えることを重視している。現在は業務と並行して、事務所ブログの企画・改善にも取り組んでいる。