会社の利益が出そうなとき、社長や役員に賞与を出したいと考えることがあります。
従業員への賞与であれば、会社の業績や評価に応じて支給を検討することもありますが、役員賞与は従業員賞与と同じ感覚で支給すると、税務上の取り扱いで問題になることがあります。
特に中小企業では、
「利益が出たから社長にも賞与を出したい」
「役員賞与は経費にできるのか知りたい」
「事前確定届出給与という言葉は聞いたことがあるが、何をすればいいのか分からない」
「届出どおりに払えなかった場合はどうなるのか不安」
といった悩みが出やすいところです。
役員賞与は、金額を決めて支給すれば終わりではありません。
支給額・支給日・議事録・届出期限・実際の支給管理までセットで確認する必要があります。
この記事では、役員賞与を出したい場合に確認すべき事前確定届出給与の考え方、届出期限、議事録、支給ミスの注意点を整理します。
この記事で分かること
この記事では、次の内容を整理します。
- 役員賞与は普通に出しても経費にできるのか
- 事前確定届出給与とは何か
- 事前確定届出給与の届出期限
- 役員賞与を出す前に残しておきたい書類
- 届出どおりに支給できなかった場合の注意点
- 役員賞与を出すべきか迷ったときの判断ポイント
役員賞与は、税務上のルールだけでなく、会社の資金繰りや役員報酬全体の設計にも関わります。
そのため、「出せるかどうか」だけでなく、出す前に何を決めておくべきかを確認することが大切です。
役員賞与は普通に出しても経費にできる?
役員賞与を考えるとき、まず確認したいのは、その賞与を会社の損金にできるかという点です。
法人税では、役員に対して支給する給与について、一定のルールがあります。国税庁では、役員給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金の額に算入されないと説明しています。
つまり、役員に賞与を支給したとしても、それが税務上認められる形になっていなければ、会社の経費として扱えない可能性があります。
従業員賞与と役員賞与は考え方が違う
従業員賞与は、会社の業績や人事評価に応じて支給することがあります。
一方で、役員賞与は、会社の利益調整に使われやすい性質があるため、税務上は厳しく見られます。
たとえば、決算前に利益が出ていることが分かってから、後出しで役員賞与を支給すると、税務上の損金として認められない可能性があります。
そのため、役員賞与を出す場合は、事前に支給日と支給額を決め、必要な届出を行い、そのとおりに支給することが重要です。
役員賞与を出すなら事前確定届出給与を確認する
中小企業で役員賞与を損金算入したい場合、まず確認することが多いのが事前確定届出給与です。
事前確定届出給与とは、簡単にいうと、役員に対して「いつ、いくら支給するか」を事前に決め、その内容を税務署へ届け出たうえで、届出どおりに支給する給与のことです。
国税庁では、事前確定届出給与について、所定の時期に確定した額の金銭などを交付する旨の定めに基づいて支給される給与であり、原則として届出が必要と説明しています。
つまり、役員賞与を出したい場合は、単に「利益が出たから支給する」のではなく、あらかじめ決めた内容どおりに支給できるかを確認する必要があります。
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与は、役員賞与を損金算入するために重要な制度です。
ただし、名前のとおり、事前に確定していることがポイントです。
「あとから金額を変える」「支給日をずらす」「資金繰りが厳しいから一部だけ支給する」といったことが起こると、税務上問題になる可能性があります。
いつ・いくら支給するかを事前に決める
事前確定届出給与では、次のような内容を事前に決めます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象役員 | 誰に支給するのか |
| 支給額 | いくら支給するのか |
| 支給日 | いつ支給するのか |
| 決議日 | 株主総会等でいつ決めたのか |
| 届出期限 | いつまでに税務署へ届け出る必要があるか |
| 資金繰り | その日に本当に支給できるか |
特に大切なのは、支給額と支給日をあいまいにしないことです。
たとえば、「夏ごろに利益が出ていれば社長に賞与を出す」といった形では、事前に確定した給与とはいえません。
事前確定届出給与として整理するなら、あらかじめ「何月何日に、いくら支給する」と決め、その内容を届出書や議事録と整合させておく必要があります。
届出期限は「決議日から1か月」または「期首から4か月」の早い日が原則
事前確定届出給与は、届出期限にも注意が必要です。
国税庁の手続案内では、株主総会等の決議により定めをした場合、原則として「決議をした日から1か月を経過する日」と「会計期間開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日までに、所定の届出書を提出する必要があるとされています。
たとえば3月決算の会社の場合、会計期間は4月に始まることが多いため、期限管理が重要になります。
ただし、会社の状況や決議の時期、新設法人、臨時改定事由などによって扱いが変わる場合があります。
そのため、役員賞与を出したい場合は、支給日だけでなく、届出期限に間に合うかを早めに確認しておくことが大切です。
役員賞与を出す前に残しておきたい書類
役員賞与は、届出書を提出すれば終わりではありません。
あとから見たときに、支給日・支給額・決議内容・実際の支給状況が一致している必要があります。
そのため、役員賞与を出す前には、次のような書類や資料を整理しておきましょう。
株主総会議事録・同意書で支給額と支給日を決める
役員賞与を支給する場合、まず会社として支給内容を決める必要があります。
株式会社の場合、取締役の報酬や賞与などの職務執行の対価について、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるとされています。
そのため、役員賞与を支給する場合は、株主総会議事録などで次の内容を残しておくことが大切です。
- 誰に支給するのか
- いくら支給するのか
- いつ支給するのか
- どの職務執行期間に対応するものか
- 決議した日
- 決議した機関
特に、事前確定届出給与では、支給時期と支給額が重要です。
議事録の内容、届出書の内容、実際の支給内容がズレないように整理しておきましょう。
届出書・給与台帳・資金繰り予定と整合させる
役員賞与では、議事録だけでなく、実際の支給管理も重要です。
確認したい資料は、次のとおりです。
| 資料 | 確認すること |
|---|---|
| 株主総会議事録 | 支給日・支給額・対象役員 |
| 事前確定届出給与に関する届出書 | 税務署へ届け出た内容 |
| 給与台帳 | 実際に支給した金額 |
| 総勘定元帳 | 役員賞与として処理した金額 |
| 源泉所得税 | 賞与に対する源泉徴収 |
| 社会保険関係 | 賞与支払届や保険料 |
| 資金繰り表 | 支給日に資金が足りるか |
役員賞与は、税務の届出だけではなく、給与処理や社会保険、資金繰りにも関係します。
「届出はしたけれど、支給日に資金が足りなかった」となると、届出どおりに支給できず、税務上の問題につながる可能性があります。
そのため、役員賞与を決める段階で、支給日当日の資金繰りまで確認しておくと安心です。
役員賞与で見落としやすい注意点
役員賞与で特に注意したいのは、届出どおりに支給できるかです。
事前確定届出給与は、事前に決めた内容どおりに支給することが前提です。
そのため、金額や支給日がズレると、税務上の取り扱いに影響する可能性があります。
届出どおりの金額・日にちで支給する必要がある
国税庁の通達では、事前確定届出給与について、届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、原則として事前確定届出給与に該当せず、その支給額の全額が損金不算入となることに留意するとされています。
つまり、届出額と実際の支給額が違う場合、税務上の損金算入が認められない可能性があります。
たとえば、
- 届出では200万円としたが、実際には100万円だけ支給した
- 資金繰りの都合で支給日を後ろにずらした
- 届出より多い金額を支給した
- 支給予定だったが、直前で支給を取りやめた
といった場合は、慎重に確認が必要です。
届出書を提出する前に、本当にその金額を、その日に支給できるのかを確認しておきましょう。
資金繰りが悪化して支給額を変えると問題になる可能性がある
役員賞与でよくある不安が、資金繰りとの関係です。
届出をした時点では支給できる見込みだったものの、その後に売上入金が遅れたり、予定外の支出が出たりして、支給日に資金が足りなくなることがあります。
この場合、単純に「今回は少なめに払う」「翌月にずらす」といった対応をすると、届出内容と実際の支給内容が変わってしまいます。
役員賞与を検討するときは、節税効果だけを見るのではなく、
- 支給日に現預金が足りるか
- 納税資金に影響しないか
- 社会保険料や源泉所得税まで含めて支払えるか
- 今後の借入返済や仕入支払いに影響しないか
まで確認することが大切です。
役員賞与は、「出せるか」だけでなく、届出どおりに最後まで実行できるかを見て判断しましょう。
源泉所得税・社会保険料・賞与支払届も確認する
役員賞与を支給する場合、法人税だけでなく、源泉所得税や社会保険の確認も必要です。
賞与は給与所得として源泉徴収の対象になります。国税庁の所得税基本通達でも、賞与とは定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものなどと整理されています。
また、社会保険の被保険者に賞与を支給した場合は、被保険者賞与支払届の提出も確認が必要です。日本年金機構では、賞与を支給した事業主は、賞与支払日から5日以内に被保険者賞与支払届等を提出すると案内しています。
役員であっても、社会保険の被保険者に該当する場合は、賞与支給時の社会保険手続きも確認しておきましょう。
役員賞与を出すべきか迷ったときの判断ポイント
役員賞与は、税務上の手続きを整えればよいというものではありません。
実際には、会社の利益、資金繰り、役員報酬とのバランス、今後の経営計画まで見て判断する必要があります。
節税だけでなく、会社の資金繰りを見る
役員賞与を出す目的として、「利益が出ているから税金対策として支給したい」という考えがあります。
もちろん、税務上の損金算入を検討することは大切です。
ただし、役員賞与を支給すると、実際に会社から現金が出ていきます。さらに、源泉所得税や社会保険料の負担も発生する可能性があります。
そのため、役員賞与を考えるときは、次のような視点で確認しましょう。
- 賞与を支給しても運転資金に余裕があるか
- 納税資金を確保できているか
- 借入返済や仕入支払いに影響しないか
- 翌期の資金繰りに無理がないか
- 社長個人の手取りと会社負担のバランスはどうか
役員賞与は、税金だけで判断すると、資金繰りを圧迫することがあります。
節税効果だけでなく、支給後の会社のお金の流れまで確認することが大切です。
役員報酬・役員賞与・退職金をまとめて考える
役員への支給を考えるときは、役員賞与だけを単独で見るのではなく、役員報酬や将来の退職金も含めて考えることが大切です。
たとえば、
- 毎月の役員報酬を上げるのか
- 事前確定届出給与として役員賞与を出すのか
- 将来の役員退職金を見据えるのか
- 会社の資金繰りを優先するのか
- 社長個人の生活費や税負担をどう考えるのか
によって、適した設計は変わります。
役員賞与は、短期的には利益調整や社長個人の収入確保に見えますが、長期的には会社の資金繰りや役員報酬設計にも影響します。
そのため、単発で「賞与を出すかどうか」を決めるのではなく、役員報酬全体の設計として自然かを確認することが大切です。
自社で整理しやすいケースと専門家に確認した方が安心なケース
役員賞与について、自社で整理しやすいのは次のようなケースです。
- 支給したい役員が明確
- 支給額と支給日を決められる
- 届出期限に余裕がある
- 支給日に必要な資金を確保できる
- 議事録や届出書の内容を管理できる
一方で、次のような場合は、早めに専門家へ確認した方が安心です。
- 届出期限に間に合うか分からない
- 役員賞与を出して経費になるか不安
- 支給日までの資金繰りが読みにくい
- 役員報酬とのバランスが分からない
- 過去に届出と違う金額で支給したことがある
- 源泉所得税や社会保険料の処理も不安
- 役員賞与と退職金もあわせて検討している
役員賞与は、届出・支給・給与処理・資金繰りがつながる論点です。
不安がある場合は、早めに整理しておくことで、後から慌てずに済みます。
よくある質問
役員賞与は後から決めても経費になりますか?
原則として、利益が出た後に後出しで役員賞与を決めた場合、損金算入が認められない可能性があります。
役員賞与を損金算入したい場合は、事前確定届出給与として、事前に支給日と支給額を決め、期限までに届出を行い、その内容どおりに支給することが重要です。
事前確定届出給与の期限を過ぎたらどうなりますか?
届出期限を過ぎてしまうと、事前確定届出給与としての要件を満たせず、損金算入できない可能性があります。
届出期限は、原則として「決議日から1か月を経過する日」と「会計期間開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日です。会社の状況によって例外もあるため、早めに確認しましょう。
届出した金額より少なく支給した場合はどうなりますか?
届出額と実際の支給額が異なる場合、原則として事前確定届出給与に該当せず、その支給額の全額が損金不算入となる可能性があります。
資金繰りの都合で支給額を変えたくなる場合もありますが、届出どおりに支給できるかを事前に慎重に確認することが大切です。
ひとり社長でも事前確定届出給与の届出は必要ですか?
ひとり社長であっても、役員賞与を事前確定届出給与として損金算入したい場合は、原則として届出が必要です。
会社と社長個人は別人格です。社長自身への支給であっても、会社として支給日・支給額を決め、必要な書類や届出を整えておく必要があります。
まとめ
役員賞与は、従業員賞与と同じ感覚で支給すると、税務上の取り扱いで問題になることがあります。
役員賞与を損金算入したい場合は、事前確定届出給与として、支給日・支給額を事前に決め、期限までに届出を行い、その内容どおりに支給することが大切です。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 役員賞与は、普通に出すだけでは損金算入できない可能性がある
- 事前確定届出給与は、支給日と支給額を事前に決める必要がある
- 届出期限は原則として「決議日から1か月」または「期首から4か月」の早い日
- 株主総会議事録や届出書、給与台帳の内容を整合させることが大切
- 届出どおりに支給できないと、損金算入に影響する可能性がある
- 役員賞与は、税務だけでなく資金繰りや社会保険料も含めて判断する必要がある
役員賞与は、出す前の設計がとても重要です。
「利益が出そうだから賞与を出したい」と思ったときほど、届出期限や資金繰り、議事録、給与処理まで早めに確認しておくと安心です。
ビジョンナビでは、役員賞与や役員報酬について、税務上の取り扱いだけでなく、議事録・給与処理・社会保険料・資金繰りまで含めて整理しています。
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