前年は利益が出ていたものの、今年は売上が落ちている。
個人事業から法人成りしたため、個人としての所得は大きく減る見込み。
それでも、税務署から前年ベースの予定納税通知が届いている。
このような場合、通知された予定納税額をそのまま納付すると、手元資金が大きく減ってしまうことがあります。
予定納税は、前年の所得金額や税額などをもとに計算された税額を、当年中にあらかじめ納付する制度です。予定納税基準額が15万円以上となる方は、原則としてその3分の1相当額を7月と11月に納付します。納付した予定納税額は、翌年の確定申告で最終的な税額から差し引かれて精算されます。
ただし、今年の業績が前年より大きく悪化している場合や、法人成りによって個人の所得が減る場合などは、予定納税の減額申請を検討できる可能性があります。
この記事では、予定納税の通知が届いた経営者に向けて、減額申請を検討すべきケース、判断の流れ、必要資料、資金繰り上の注意点をわかりやすく解説します。
予定納税とは?経営者にとっては「前年ベースの税金の前払い」
予定納税は、所得税及び復興特別所得税の一部を、確定申告前にあらかじめ納付する制度です。
対象になるのは、主に個人事業主や不動産所得がある方など、前年の申告納税額が一定以上ある方です。会社員として給与だけを受け取っている方は、通常、毎月の給与から源泉徴収されるため、予定納税の対象になりにくいです。
予定納税が必要な方には、6月中旬に税務署から「予定納税額の通知書」が送付されます。令和8年分の第1期分の納期は、令和8年7月1日から7月31日までです。
経営者にとって重要なのは、予定納税が今年の利益ではなく、前年の所得や税額をもとに計算されるという点です。
つまり、前年は好調だったものの、今年は売上が下がっている場合でも、通知される予定納税額は前年ベースで計算されます。そのため、今年の資金繰りと合わない金額になることがあります。
予定納税が重くなりやすい経営者のケース
予定納税が負担になりやすいのは、単に「納税額が高い人」だけではありません。
特に注意したいのは、前年と今年で事業環境が大きく変わっているケースです。
前年は利益が出たが、今年は売上が落ちている
前年に大きな利益が出ていると、予定納税基準額も高くなりやすくなります。
しかし、今年に入ってから売上が落ちている場合、前年ベースの予定納税をそのまま納付すると、実態よりも重い税負担に感じられることがあります。
たとえば、前年は大型案件があり利益が出たものの、今年は受注が減っている場合です。
また、原材料費・外注費・人件費の増加によって、売上は大きく変わらなくても利益が減っている場合もあります。
このような場合は、今年の利益見込みをもとに、予定納税の減額申請ができないか確認する価値があります。
個人事業から法人成りした
法人成りをした経営者も、予定納税に注意が必要です。
個人事業主として前年に利益が出ていた場合、その実績をもとに個人の所得税の予定納税通知が届くことがあります。
しかし、今年から法人で事業を行っている場合、個人の事業所得は前年より大きく減っている可能性があります。法人から役員報酬を受け取る形に変わっている場合、個人の所得構造も変わります。
このとき、前年の個人事業の利益をもとにした予定納税額をそのまま納付すると、個人の手元資金に大きな負担がかかることがあります。
法人成りした直後の経営者は、法人の資金繰りだけでなく、個人側の予定納税もあわせて確認しておくことが重要です。
事業縮小・休業・廃業をしている
廃業、休業、業況不振などにより、その年の申告納税見積額が予定納税基準額より少なくなると見込まれる場合、予定納税額の減額申請をすることができます。
たとえば、店舗を閉めた、事業の一部を縮小した、主要取引先との契約が終了した、休業期間が発生したといったケースです。
このような場合は、前年と同じ利益が出る前提で予定納税を行うと、実態と大きくズレる可能性があります。
予定納税の減額申請とは
予定納税の減額申請とは、今年の所得税額が前年ベースで計算された予定納税額より少なくなると見込まれる場合に、予定納税額を減らしてもらうための手続きです。
令和8年分の第1期分について減額申請をする場合は、令和8年6月30日時点の状況をもとに、令和8年分の申告納税見積額を計算します。第1期分の減額申請は、令和8年7月15日までに「予定納税額の減額申請書」を所轄税務署へ提出する必要があります。提出方法は、書面またはe-Taxです。
ここで大切なのは、減額申請は「税金をなくす手続き」ではないということです。
あくまで、今年の所得見込みに合わせて、予定納税という前払い額を見直す手続きです。最終的な税額は、翌年の確定申告で精算されます。
そのため、減額申請をして予定納税額が少なくなっても、最終的に利益が出ていれば確定申告時に追加で納付することになります。
逆に、今年の利益が大きく減っているのに予定納税をそのまま納付した場合は、確定申告で精算されるとはいえ、一時的に多くの資金が出ていくことになります。
経営者にとっては、この「一時的な資金流出」が問題になります。
減額申請を検討した方がいいケース
次のような状況に当てはまる場合は、予定納税の減額申請を検討する価値があります。
今年の利益が前年より大きく減る見込み
売上が下がっている、粗利率が悪化している、固定費が増えているなどにより、今年の利益が前年より明らかに少なくなる場合です。
特に、6月までの試算表を見た時点で、前年同期間と比べて利益が大きく落ちている場合は、年間の着地見込みを確認する必要があります。
「売上は少し下がっている」だけではなく、利益ベースでどれくらい変わっているかを見ることが重要です。
予定納税は所得税に関係するため、売上ではなく、最終的な所得や税額の見込みが判断材料になります。
法人成り後、個人の所得が減っている
法人成りをした場合、個人事業主時代の所得と、法人設立後の個人の所得は別物です。
個人事業主時代は、事業の利益がそのまま個人の所得になります。
一方、法人成り後は、法人から受け取る役員報酬が個人の主な所得になることが多いです。
前年の個人事業の利益をもとに予定納税通知が届いている場合でも、今年の個人所得が役員報酬中心になり、前年より少なくなるなら、減額申請の余地があります。
法人成り直後は、法人側の税務や社会保険の対応に意識が向きがちですが、個人側の予定納税も見落とさないようにしましょう。
納付すると資金繰りが厳しくなる
予定納税は、最終的に確定申告で精算されるとはいえ、納付時点では実際に資金が出ていきます。
そのため、手元資金が少ない状態で高額な予定納税を行うと、仕入代金、人件費、借入返済、家賃、外注費などの支払いに影響することがあります。
特に中小企業や小規模事業では、個人と法人の資金が完全に切り分けられていないケースもあります。
「後で戻るかもしれない税金」でも、今月の資金繰りを圧迫するなら、早めに見直すべきです。
減額申請をしない方がいいケースもある
一方で、予定納税の減額申請は、すべての人が出せばよいというものではありません。
今年も前年並みの利益が出る見込み
今年も前年と同じくらいの利益が出る見込みであれば、減額申請をしても認められにくい可能性があります。
予定納税は前払いの制度であり、最終的には確定申告で精算されます。資金繰りに問題がなく、今年も利益が出る見込みであれば、そのまま納付する方が自然なケースもあります。
根拠資料が弱い
減額申請では、今年の所得見込みを説明する必要があります。
国税庁も、減額申請の添付書類として「申告納税見積額の計算の基礎となる事実を記載した書類」の提出を求めています。
つまり、「なんとなく今年は厳しそう」という理由だけでは不十分です。
売上推移、試算表、経費の増加、休業・廃業の状況など、今年の税額が下がると見込まれる根拠を整理しておく必要があります。
申請後に利益が回復する可能性が高い
6月時点では業績が悪くても、下半期に大型案件が見込まれている場合や、すでに利益回復の見通しがある場合は注意が必要です。
減額申請で予定納税を減らしても、最終的に年間利益が出れば確定申告で追加納付が発生します。
そのため、減額申請をするかどうかは、目先の資金繰りだけでなく、年間の着地見込みまで見て判断する必要があります。
経営者が確認すべき判断ステップ
予定納税の通知が届いたら、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
1. 通知書の金額を確認する
まずは、税務署から届いた予定納税額の通知書を確認します。
第1期分の金額、第2期分の金額、納付期限、納付方法を確認しましょう。
振替納税を利用している場合、令和8年分の第1期分の振替日は令和8年7月31日です。残高不足で引き落としができなかった場合、法定納期限の翌日から延滞税がかかる場合があります。
2. 6月までの試算表を確認する
次に、今年1月から6月までの売上・経費・利益を確認します。
ここで大切なのは、売上だけではなく、利益を見ることです。
売上が前年並みでも、外注費、人件費、材料費、広告費などが増えていれば、利益は下がっている可能性があります。
3. 年間の着地見込みを出す
6月までの実績だけでは、年間の税額見込みは判断できません。
下半期の売上予定、経費予定、役員報酬、社会保険料、借入返済、設備投資なども踏まえて、年間の所得見込みを出す必要があります。
特に法人成りしている場合は、個人事業の所得、給与所得、法人側の利益を分けて整理する必要があります。
4. 納付した場合の資金繰りを確認する
予定納税額をそのまま納付した場合、手元資金がどれくらい残るかを確認します。
預金残高だけでなく、今後1〜3か月の支払い予定もあわせて見ましょう。
確認したい支払いは、たとえば次のようなものです。
- 給与・役員報酬
- 社会保険料
- 仕入代金
- 外注費
- 家賃
- 借入返済
- 消費税・法人税など他の納税
- 賞与
- 設備投資
予定納税だけを見て「払える」と判断しても、その後の支払いまで考えると資金繰りが苦しくなることがあります。
5. 減額申請するか、納付するかを決める
最後に、今年の税額見込みと資金繰りを踏まえて、減額申請をするか、そのまま納付するかを判断します。
判断の目安は次のとおりです。
| 状況 | 判断の方向性 |
|---|---|
| 今年の利益が前年より大きく下がる | 減額申請を検討 |
| 法人成りで個人所得が大きく減る | 減額申請を検討 |
| 納付すると資金繰りが厳しい | 減額申請を検討 |
| 今年も前年並みの利益が出そう | そのまま納付も選択肢 |
| 根拠資料が不足している | まず資料整理が必要 |
| 下半期に利益回復が見込まれる | 年間見込みを慎重に確認 |
減額申請に必要な資料
予定納税の減額申請を検討する場合、次の資料を準備しておくと判断しやすくなります。
- 税務署から届いた予定納税額の通知書
- 今年1月から6月までの試算表
- 前年同期間の試算表
- 売上推移がわかる資料
- 経費の増加がわかる資料
- 年間の売上・利益見込み
- 法人成りした場合は、法人設立日や役員報酬の資料
- 廃業・休業・事業縮小がある場合は、その状況がわかる資料
- 資金繰り表または今後の支払い予定
減額申請で大切なのは、単に「今年は厳しい」と説明することではありません。
税務署から通知された予定納税基準額と比べて、今年の申告納税見積額が少なくなる見込みであることを、数字で説明する必要があります。
そのため、月次の試算表が整っていない場合は、まず会計処理を進めることが重要です。
法人成りした経営者は「個人」と「法人」を分けて考える
法人成りした経営者は、予定納税について特に注意が必要です。
なぜなら、税金の対象が変わるからです。
個人事業主のときは、事業の利益に対して個人の所得税がかかります。
一方、法人化後は、法人の利益には法人税等がかかり、代表者個人には役員報酬に対する所得税がかかります。
そのため、個人事業主時代の所得をもとに予定納税通知が届いていても、今年の個人所得は前年より大きく減っている可能性があります。
この場合、個人の予定納税をそのまま納付するべきか、減額申請をするべきかを確認する必要があります。
一方で、法人側では別途、法人税や消費税の中間納付が発生することがあります。
個人の予定納税だけを見ていると、法人側の納税や社会保険料の負担を見落とすことがあります。
法人化後は、個人と法人の両方の資金繰りを見ながら、納税スケジュールを整理することが大切です。
法人の中間納付が高すぎると感じている方へ
法人の場合は、個人の所得税の予定納税とは別に、法人税等の中間申告や消費税の中間申告が発生することがあります。
前期は黒字だったものの、今期は利益が落ちている会社では、仮決算によって納税額を見直せる可能性があります。
詳しくは、関連記事「法人の中間納付が高すぎる会社へ|仮決算で納税額を見直す判断基準と相談タイミング」もご確認ください。
減額申請の期限に注意
予定納税の減額申請は、期限が非常に重要です。
第1期分と第2期分の減額申請は、その年の7月1日から7月15日までに提出します。第2期分のみの減額申請は、その年の11月1日から11月15日までに提出します。提出期限が土日祝日にあたる場合は、その翌日が期限です。
令和8年分の第1期分については、令和8年7月15日までに提出する必要があります。
期限を過ぎると、第1期分について減額申請を行うことが難しくなります。
予定納税の通知が届いてから考え始めると、資料の整理や試算に時間がかかることがあります。特に、月次処理が遅れている場合や、法人成り後の個人所得を整理できていない場合は、早めの確認が必要です。
よくある質問
Q. 予定納税を払えば、確定申告で戻ってくるなら問題ないのでは?
最終的には確定申告で精算されます。
ただし、経営者にとって問題になるのは、確定申告までの資金繰りです。
予定納税を多く納めた結果、数か月間の手元資金が不足するなら、事業運営に影響が出る可能性があります。仕入、人件費、外注費、借入返済などを考えると、単に「後で戻るから大丈夫」とは言い切れません。
Q. 赤字見込みなら必ず減額申請できますか?
赤字見込みだからといって、必ず承認されるとは限りません。
減額申請書を提出した後、税務署は申請内容について、承認、一部承認、却下のいずれかを決定します。
そのため、申請には根拠となる資料や、年間の所得見込みの整理が重要です。
Q. 法人成りしたら、個人の予定納税は無視していいですか?
無視してはいけません。
法人成りしていても、前年の個人事業の所得をもとに、個人の予定納税通知が届くことがあります。
今年の個人所得が減る見込みであれば、減額申請を検討できますが、何もしないまま放置すると納付期限が過ぎてしまう可能性があります。
Q. 税理士に相談するなら、いつまでがよいですか?
第1期分の減額申請期限が7月15日であることを考えると、通知書が届いたらできるだけ早めに相談するのが望ましいです。
特に、6月までの試算表が未完成の場合や、法人成り後の個人所得を整理できていない場合は、申請判断までに時間がかかります。
予定納税の減額申請は「税務手続き」ではなく「資金繰り判断」
予定納税の減額申請は、単なる書類提出ではありません。
経営者にとっては、今年の利益見込み、納税額、手元資金、今後の支払い予定を見ながら判断すべき資金繰り上の重要なテーマです。
特に、次のような方は早めに確認することをおすすめします。
- 税務署から予定納税の通知が届いた
- 前年より売上や利益が下がっている
- 今年、個人事業から法人成りした
- 予定納税を払うと資金繰りが厳しい
- 今年の税額見込みがわからない
- 試算表が遅れていて判断できない
- 法人側の中間納付も重なりそう
予定納税は、通知された金額をそのまま納付するしかないものではありません。
今年の状況に応じて、減額申請を検討できる場合があります。
ただし、申請には期限があり、根拠となる資料も必要です。迷っているうちに期限が過ぎてしまうと、資金繰りに大きな影響が出る可能性があります。
まとめ|予定納税が重いと感じたら、まず今年の利益見込みを確認しましょう
予定納税は、前年の所得や税額をもとに計算されるため、今年の業績が悪化している経営者にとっては負担が重くなることがあります。
特に、売上減少、利益率の悪化、法人成り、事業縮小、休業などがある場合は、予定納税の減額申請を検討する価値があります。
ただし、減額申請は「払いたくないから出すもの」ではありません。
今年の所得税額が前年ベースの予定納税基準額より少なくなる見込みであることを、数字で説明する必要があります。
予定納税の通知が届いたら、まずは次の3つを確認しましょう。
- 通知された予定納税額
- 今年の利益見込み
- 納付した場合の資金繰りへの影響
この3つを確認することで、予定納税をそのまま納付するべきか、減額申請を検討するべきかが見えてきます。
税理士法人ビジョン・ナビでは、予定納税の減額申請だけでなく、月次試算表の確認、法人成り後の税務整理、資金繰りの見直しまでまとめてサポートしています。
「予定納税の通知が届いたが、払うべきか迷っている」
「法人成りしたのに、個人の予定納税通知が届いて困っている」
「今年の利益見込みをもとに、減額申請できるか確認したい」
このような方は、早めにご相談ください。
予定納税を単なる納付手続きとして処理するのではなく、今年の資金繰りと経営判断に合わせて、無理のない納税計画を立てていきましょう。
