夏季賞与を支給する時期になると、支給額の決定だけでなく、社会保険料や源泉所得税の計算、賞与支払届の提出、支給後の資金繰り確認など、会社側で確認すべきことが増えます。
特に中小企業では、社長や経理担当者が通常業務と並行して賞与計算を行うことも多く、「何をいつまでに確認すればよいのか」「社会保険料や税金の処理に漏れがないか」と不安になることもあるのではないでしょうか。
夏季賞与は、従業員にとって大切な支給である一方、会社にとっては一時的に大きな資金が動くタイミングでもあります。支給額だけを見て判断すると、支給後の社会保険料や源泉所得税の納付、資金繰りへの影響を見落としてしまうことがあります。
この記事では、夏季賞与を支給する会社が確認したい手続きを、支給前・支給時・支給後の流れに沿って整理します。
夏季賞与を支給する会社がまず確認したい全体像
夏季賞与を支給するときは、最初に「支給額を決める」だけでなく、その後に発生する手続きまで含めて確認することが大切です。
大まかには、次の流れで整理すると分かりやすくなります。
| タイミング | 主な確認事項 | 注意点 |
|---|---|---|
| 支給前 | 支給対象者、支給額、在籍状況、支給日 | 退職予定者・休職者・役員賞与の扱いに注意 |
| 支給時 | 社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、賞与明細 | 控除額や税額の計算誤りに注意 |
| 支給後 | 賞与支払届、源泉所得税の納付、会計処理 | 提出期限・納付期限の確認が必要 |
| 資金繰り | 賞与支給後の預金残高、税金・社会保険料の支払い予定 | 支給後に資金が不足しないか確認 |
夏季賞与の実務で見落としやすいのは、「従業員にいくら支給するか」だけで判断してしまうことです。
会社側では、額面の賞与だけでなく、会社負担の社会保険料や、その後の納付資金まで含めて確認する必要があります。特に、月次の数字や支払い予定が整理されていない場合、賞与支給後に思ったより資金が減ってしまうこともあります。
支給前に確認したいこと
夏季賞与を支給する前には、まず支給対象者と支給額を確認します。
単に「全社員に一律で支給する」という場合でも、実務上は次のような点で判断に迷うことがあります。
支給対象者を確認する
まず、誰に賞与を支給するのかを確認します。
例えば、次のようなケースでは、就業規則や給与規程、雇用契約書の内容を確認した方がよい場合があります。
- 賞与支給日前後に退職予定の従業員がいる
- 休職中の従業員がいる
- 入社して間もない従業員がいる
- パート・アルバイトにも支給する可能性がある
- 役員に賞与を支給する予定がある
特に役員賞与については、税務上の取扱いが従業員賞与とは異なる場合があります。法人税の損金算入に関わることもあるため、支給前に確認しておくと安心です。
支給額と支給日を決める
次に、賞与の支給額と支給日を決めます。
支給日は、賞与明細の発行、給与計算、社会保険料や源泉所得税の計算、賞与支払届の提出期限などに関係します。
日本年金機構では、健康保険・厚生年金保険の被保険者などに賞与を支給した場合、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」で支給額等を届け出ることとされています。
そのため、支給日を決めたら、支給後の届出スケジュールまであわせて確認しておくことが大切です。
支給時に確認したい社会保険料・雇用保険料・源泉所得税
賞与を支給するときは、額面金額から社会保険料、雇用保険料、源泉所得税などを控除して、従業員へ手取り額を支給します。
ここで計算誤りがあると、従業員の手取り額や会社の納付額に影響するため、丁寧に確認したい部分です。
社会保険料
賞与にも、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料がかかります。
賞与の社会保険料は、毎月の給与と同じように考えるのではなく、賞与額をもとに標準賞与額を算出し、保険料率をかけて計算します。日本年金機構の届書資料でも、標準賞与額は賞与等の支給額の1,000円未満を切り捨てた額とされています。
実務上は、次のような点を確認します。
- 健康保険・厚生年金保険の対象者か
- 標準賞与額の計算が合っているか
- 保険料率が最新のものになっているか
- 会社負担分も含めた総額を把握しているか
社会保険料は従業員負担分だけでなく、会社負担分も発生します。そのため、賞与の資金繰りを考えるときは、従業員への支給額だけでなく、会社負担分まで含めて見る必要があります。
雇用保険料
賞与は、雇用保険料の対象にもなります。
雇用保険料率は年度や事業の種類によって変わります。令和8年度の一般の事業では、労働者負担分は5/1,000、事業主負担分は8.5/1,000、合計の雇用保険料率は13.5/1,000とされています。賞与計算では、従業員から控除する労働者負担分だけでなく、会社が負担する事業主負担分も資金繰りに含めて確認しておくことが大切です。
実際の計算では、業種によって料率が異なる場合があるため、自社の事業区分に合った料率を確認しましょう。
源泉所得税
賞与からは、源泉所得税も控除します。
賞与の源泉所得税は、通常の毎月の給与と同じ感覚で計算すると間違いやすい部分です。国税庁では、賞与の源泉徴収税額について、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用し、前月中の給与や扶養親族等の数などをもとに計算する流れが示されています。
実務上は、次のような点を確認します。
- 扶養控除等申告書の提出状況
- 前月給与の金額
- 社会保険料等を控除した後の金額
- 賞与に対する源泉徴収税額の算出率
- 甲欄・乙欄の区分
従業員から「賞与の手取りが思ったより少ない」と質問されることもありますが、その理由の多くは社会保険料や源泉所得税の控除にあります。従業員に説明できるよう、明細の見方も整理しておくと安心です。
明細の見方や説明方法については、こちらの記事で詳しく整理しています。
夏季賞与の手取りが少ないと言われたら?会社が確認したい賞与明細と控除の説明方法
支給後に必要な届出・納付を確認する
賞与を支給した後は、届出や納付の手続きが残ります。
支給して終わりではなく、支給後の処理まで完了して初めて、賞与実務が一通り終わったといえます。
賞与支払届を提出する
社会保険の被保険者に賞与を支給した場合、原則として賞与支払届の提出が必要です。
日本年金機構では、被保険者や70歳以上被用者へ賞与を支給した場合、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届け出ると案内しています。
また、賞与支払予定月として登録している月に賞与を支給しなかった場合は、賞与不支給報告書の提出が必要になる場合があります。
「今回は賞与を出さなかったから何もしなくてよい」と判断してしまうと、必要な報告が漏れる可能性があるため注意が必要です。
源泉所得税を納付する
賞与から控除した源泉所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納付します。国税庁でも、源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として支払月の翌月10日までに納めると案内されています。
ただし、納期の特例を受けている会社では、納付時期が異なる場合があります。
自社が納期の特例の対象かどうか、賞与分も含めてどの期間の源泉所得税をいつ納付するのかを確認しておきましょう。
会計処理と月次への反映
賞与を支給した後は、会計処理にも反映します。
賞与として支給した金額、社会保険料の会社負担分、預り金として処理する従業員負担分、源泉所得税などを正しく処理する必要があります。
月次試算表への反映が遅れると、実際には大きな支出があったにもかかわらず、会社の利益や資金繰りの見え方がずれてしまうことがあります。
賞与月は通常月と比べて人件費が大きく動くため、月次の数字を早めに整理することが大切です。
夏季賞与は資金繰りまで含めて確認する
夏季賞与の実務で、意外と見落とされやすいのが資金繰りです。
賞与を支給すると、従業員への振込だけでなく、その後に社会保険料や源泉所得税の納付が続きます。さらに、時期によっては消費税、法人税、住民税、予定納税などの支払いと重なることもあります。
そのため、夏季賞与を支給する前には、次のような点を確認しておくと安心です。
- 賞与支給後の預金残高
- 社会保険料の納付予定
- 源泉所得税の納付予定
- 今後1〜3か月の支払い予定
- 税金や借入返済との重なり
- 月次試算表上の利益と実際の現金残高
利益が出ていても、現金が十分に残っているとは限りません。売掛金の回収時期、借入返済、税金の納付、設備投資などが重なると、賞与支給後に資金繰りが苦しくなることもあります。
賞与は従業員のモチベーションにも関わる大切な支給ですが、会社にお金を残しながら継続的に支給できる体制を整えることも重要です。
自社で確認しやすいケース・専門家に相談した方がよいケース
夏季賞与の手続きは、自社で整理しやすい場合もあります。
例えば、次のような状態であれば、社内でも比較的確認しやすいでしょう。
- 支給対象者が明確になっている
- 給与規程や賞与規程を確認できる
- 賞与計算ソフトや給与システムを使っている
- 最新の社会保険料率・雇用保険料率を確認できている
- 賞与支払届や源泉所得税の納付期限を把握している
- 支給後の預金残高や支払い予定を一覧にできている
一方で、次のような場合は、一度専門家に確認した方が安心です。
- 賞与の支給額が大きい
- 役員賞与を検討している
- 退職予定者や休職者の扱いに迷う
- 社会保険料や源泉所得税の計算に不安がある
- 賞与支給後の資金繰りが不安
- 月次試算表の作成が遅れている
- 経理担当者だけで判断するのが難しい
- 税務と労務の両方にまたがる確認が必要
賞与は、税務・社会保険・給与計算・資金繰りがつながるテーマです。どこか一つだけを見るのではなく、会社全体の数字として整理することが大切です。
よくある質問
Q. 賞与支払届はいつまでに提出する必要がありますか?
社会保険の被保険者等に賞与を支給した場合、原則として支給日から5日以内に賞与支払届を提出します。実際の提出先や方法は、加入している健康保険の種類や事業所の状況によって異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
Q. 賞与を支給しなかった場合も手続きは必要ですか?
賞与支払予定月として登録している月に賞与を支給しなかった場合、賞与不支給報告書の提出が必要になる場合があります。「支給していないから何もしなくてよい」と判断せず、自社の届出状況を確認しておくと安心です。
Q. 賞与の源泉所得税は毎月の給与と同じように計算すればよいですか?
賞与の源泉所得税は、通常の給与と同じ計算方法ではなく、原則として賞与用の算出率表を使って計算します。前月給与や扶養親族等の数、扶養控除等申告書の提出状況などによって税額が変わるため、計算時には注意が必要です。
Q. 賞与支給前に資金繰りで確認すべきことはありますか?
賞与の振込額だけでなく、会社負担の社会保険料、源泉所得税の納付、今後の税金や借入返済の予定まで確認しておくことが大切です。賞与支給後の1〜3か月の資金繰りを見ておくと、支給後の資金不足を防ぎやすくなります。
まとめ
夏季賞与を支給する会社は、支給額だけでなく、賞与支払届、社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、会計処理、資金繰りまで含めて確認することが大切です。
特に、賞与支払届は支給後の期限が短く、源泉所得税の納付や社会保険料の資金負担も発生します。支給前に全体の流れを整理しておくことで、手続き漏れや計算ミスを防ぎやすくなります。
また、賞与は支給額だけを見て判断するのではなく、支給後の社会保険料や税金の支払いまで含めて資金繰りを確認しておくことも重要です。賞与支給後の資金繰りや納税資金に不安がある場合は、月次の数字をもとに早めに確認しておくと安心です。
賞与支給前の資金繰り確認については、以下の記事で詳しく整理しています。
