夏季賞与を支給した後、従業員から「思っていたより手取りが少ないのですが、なぜですか?」と質問されることがあります。
賞与は額面金額が大きく見える一方で、社会保険料、雇用保険料、源泉所得税などが控除されるため、実際の手取り額との間に差が出やすい支給です。そのため、従業員側から見ると「会社が多く引いているのではないか」「計算が間違っているのではないか」と感じられることもあります。
会社側としては、まず賞与明細の各項目を確認し、控除の内容を整理したうえで、従業員に分かりやすく説明できる状態にしておくことが大切です。
この記事では、夏季賞与の手取りが少ないと言われたときに、会社が確認したい賞与明細の見方、控除項目、従業員への説明方法を整理します。
夏季賞与の手取りが少なく見える主な理由
夏季賞与の手取りが少なく見える主な理由は、額面の賞与から各種控除が差し引かれるためです。
賞与から控除される主な項目は、次のとおりです。
| 控除項目 | 内容 | 会社側で確認したいこと |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 健康保険に加入している従業員から控除 | 対象者・標準賞与額・料率 |
| 厚生年金保険料 | 厚生年金に加入している従業員から控除 | 標準賞与額・上限・料率 |
| 雇用保険料 | 雇用保険の対象となる従業員から控除 | 最新の料率・事業区分 |
| 源泉所得税 | 賞与に対する所得税を控除 | 前月給与・扶養人数・甲欄乙欄 |
賞与は、毎月の給与と同じように見えても、計算方法が異なる部分があります。特に源泉所得税は、単純に賞与額だけで決まるわけではなく、前月給与や扶養親族等の数なども関係します。
国税庁では、通常の場合、前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額をもとに、賞与に対する源泉徴収税額の算出率を確認し、賞与から社会保険料等を差し引いた金額にその率を乗じて源泉徴収税額を計算すると案内されています。
そのため、従業員に説明するときは、「賞与額がいくらか」だけでなく、「どの控除が、どのような考え方で差し引かれているか」を明細に沿って確認することが大切です。
会社がまず確認したい賞与明細の見方
従業員から手取り額について質問された場合、まずは賞与明細を順番に確認します。
いきなり税金や社会保険の制度説明をするよりも、明細の項目に沿って整理した方が、従業員にも伝わりやすくなります。
額面支給額を確認する
最初に確認したいのは、賞与の額面支給額です。
支給予定額と賞与明細上の支給額が一致しているか、対象期間や評価内容に応じた金額になっているかを確認します。
ここで支給額そのものに誤りがあると、その後の社会保険料や源泉所得税の計算にも影響します。
社会保険料を確認する
次に、健康保険料と厚生年金保険料を確認します。
賞与にかかる社会保険料は、税引き前の賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」をもとに計算され、事業主と被保険者が折半で負担します。標準賞与額の上限は、健康保険では年度累計573万円、厚生年金保険では1か月あたり150万円とされています。
会社側では、次の点を確認しておくと安心です。
- 社会保険の加入対象者か
- 標準賞与額の計算が合っているか
- 1,000円未満の端数処理ができているか
- 健康保険料・厚生年金保険料の料率が最新か
- 高額賞与の場合、上限の扱いに誤りがないか
特に、賞与額が大きい場合は、従業員本人の控除額だけでなく、会社負担分も大きくなります。従業員への説明だけでなく、会社側の資金繰りにも関係するため、支給前後で確認しておきたい項目です。
雇用保険料を確認する
賞与は、雇用保険料の対象にもなります。
雇用保険料率は年度や事業の種類によって変わります。令和8年度の一般の事業では、雇用保険料率全体は13.5/1,000、労働者負担は5/1,000、事業主負担は8.5/1,000とされています。
従業員への手取り説明では、労働者負担分として控除されている金額を確認します。一方、会社の資金繰りを見るときは、事業主負担分も含めて確認する必要があります。
源泉所得税を確認する
賞与の源泉所得税は、従業員から質問が出やすい項目です。
賞与の源泉所得税は、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。ただし、前月中に給与の支払がない場合や、賞与から社会保険料等を差し引いた金額が、前月給与から社会保険料等を差し引いた金額の10倍を超える場合などは、通常とは異なる計算方法になることがあります。
会社側では、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 扶養控除等申告書の提出状況
- 甲欄・乙欄の区分
- 前月給与の金額
- 扶養親族等の数
- 賞与から控除される社会保険料等
- 使用している税額表が支給年に対応しているか
源泉所得税は、賞与額だけでなく前月給与や扶養状況の影響を受けるため、従業員から見ると分かりにくい部分です。「賞与だから税金が多く引かれている」という説明だけで終わらせず、明細上の計算根拠を確認できるようにしておくことが大切です。
従業員に説明するときのポイント
従業員から「賞与の手取りが少ない」と言われたときは、説明の順番も大切です。
制度を一方的に説明するよりも、まずは従業員が不安に感じている点を受け止めたうえで、賞与明細を見ながら整理すると伝わりやすくなります。
まず額面と手取りの違いを説明する
最初に、「賞与の額面から、社会保険料・雇用保険料・源泉所得税などが控除された後の金額が手取りです」と説明します。
従業員によっては、額面金額の印象が強く、控除後の金額との差に驚くことがあります。
会社が自由に引いているものではないと伝える
次に、社会保険料や源泉所得税は、会社が任意で差し引いているものではなく、制度に基づいて控除しているものであることを伝えます。
このとき、「決まりなので仕方ありません」とだけ伝えるよりも、明細上のどの項目が何の控除なのかを説明した方が、従業員の納得感につながりやすくなります。
賞与の源泉所得税は前月給与なども関係すると説明する
賞与の源泉所得税は、賞与額だけを見て決まるわけではありません。
前月給与、扶養親族等の数、扶養控除等申告書の提出状況などによって、適用される算出率が変わります。
そのため、「同じ賞与額でも、従業員によって源泉所得税が異なることがある」と説明できるようにしておくと、質問に対応しやすくなります。
会社側で計算ミスがないか確認したいケース
賞与の手取りが少ないと言われた場合、制度上の控除であることも多いですが、会社側の計算ミスや給与ソフトの設定ミスがないかも確認しておく必要があります。
特に、次のようなケースでは注意が必要です。
- 前月給与が通常月と大きく異なっていた
- 扶養人数の変更が反映されていない
- 扶養控除等申告書の提出状況が正しく設定されていない
- 甲欄・乙欄の区分が誤っている
- 入社直後、退職予定、休職中の従業員がいる
- 社会保険の加入・喪失タイミングがあいまい
- 給与計算ソフトの料率が古い
- 雇用保険の事業区分が正しく設定されていない
- 高額賞与で標準賞与額の上限に関係しそう
このような場合、従業員への説明前に、経理担当者だけで判断せず、社内の給与計算ルールや専門家に確認した方が安心なこともあります。
また、賞与明細の説明は、単なる事務対応ではありません。従業員にとって賞与は関心が高い支給であり、会社がきちんと説明できるかどうかは、信頼感にも関わります。
計算そのものが正しくても、説明があいまいだと不安を与えてしまうことがあります。反対に、明細の見方や控除の根拠を丁寧に説明できれば、従業員も納得しやすくなります。
賞与明細の説明を経理体制として整えておく
賞与の手取りに関する質問は、毎年のように発生する可能性があります。
そのたびに経理担当者が一から調べるのではなく、社内で説明しやすい形に整理しておくと、対応がスムーズになります。
例えば、次のような準備が考えられます。
- 賞与明細の各項目の説明をまとめておく
- 社会保険料・雇用保険料・源泉所得税の確認手順を決めておく
- 従業員から質問されたときの説明文を用意しておく
- 給与ソフトの料率更新時期を確認しておく
- 月次の人件費や預り金の処理とつなげて確認する
賞与は、従業員への支給であると同時に、会社の人件費、社会保険料、源泉所得税、資金繰りにも関係します。
そのため、賞与明細だけを単独で見るのではなく、月次の数字や資金繰りともつなげて確認することが大切です。特に賞与月は通常月より人件費が大きく動くため、月次試算表への反映が遅れると、会社の利益や現金残高の見え方にズレが出ることがあります。
よくある質問
Q. 賞与の手取りが少ないのは、会社が多く引いているからですか?
多くの場合、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、源泉所得税などの控除によって、額面より手取りが少なくなります。会社が自由に引いているものではありませんが、料率や扶養情報、給与ソフトの設定に誤りがないかは確認しておくと安心です。
Q. 賞与の源泉所得税は、なぜ高く感じることがあるのですか?
賞与の源泉所得税は、賞与額だけでなく、前月給与や扶養親族等の数などをもとに計算します。そのため、前月給与が高かった場合や扶養人数の状況によって、源泉所得税が高く感じられることがあります。
Q. 賞与から住民税は控除されますか?
一般的には、住民税は毎月の給与から控除されることが多く、賞与明細では社会保険料や雇用保険料、源泉所得税が主な控除項目になります。ただし、給与計算の設定や明細の表示方法によって見え方が異なることもあるため、実際の明細で確認しましょう。
Q. 従業員から賞与明細について質問されたら、まず何を確認すればよいですか?
まず、額面支給額、社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、差引支給額を順番に確認します。そのうえで、前月給与、扶養人数、社会保険の加入状況、給与ソフトの料率設定などに誤りがないかを確認するとよいでしょう。
まとめ
夏季賞与の手取りが少ないと言われたときは、まず賞与明細の内容を確認し、額面支給額からどの控除が差し引かれているのかを整理することが大切です。
賞与からは、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、源泉所得税などが控除されます。特に源泉所得税は、前月給与や扶養親族等の数などによって変わるため、従業員から見ると分かりにくい部分です。
会社側では、計算ミスや給与ソフトの設定ミスがないか確認したうえで、従業員に明細をもとに説明できるようにしておくと安心です。また、賞与明細の説明だけでなく、賞与支給後の手続きや納付、会社負担分の社会保険料まで含めて確認しておくことで、経理体制としても安定しやすくなります。
賞与計算だけでなく、賞与支払届や社会保険料、源泉所得税の納付まで確認したい場合は、以下の記事もあわせてご確認ください。
