中小企業の社長と経理担当者が、労働保険の年度更新資料・賃金台帳・資金繰り表を確認しているビジネス向けイラスト。

労働保険の年度更新とは?従業員がいる会社が7月10日までに確認したい申告・納付と資金繰り

吉本亘

吉本亘

従業員を雇っている会社では、毎年6月から7月にかけて「労働保険の年度更新」という手続きが必要になります。

「労働保険料の申告書が届いたけれど、何を確認すればよいか分からない」
「給与計算の数字をどこまで集計すればよいのか不安」
「7月10日までに納付があるけれど、他の支払いと重なって資金繰りが心配」

このように感じる社長や経理担当者の方も少なくありません。

労働保険の年度更新は、単に書類を提出するだけの手続きではありません。前年度の賃金総額をもとに保険料を精算し、今年度分の保険料も見込んで申告・納付するため、会社の給与管理や資金繰りにも関係します。

この記事では、労働保険の年度更新の基本、7月10日までに確認したいこと、資金繰りで注意したいポイントを、中小企業向けに整理します。

労働保険の年度更新とは?

労働保険とは、労災保険と雇用保険をまとめた制度です。厚生労働省は、労働保険を「労災保険と雇用保険の総称」と説明しており、常勤・パート・アルバイトなどの名称にかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業場は加入が義務付けられています。

労働保険の年度更新とは、簡単にいうと、前年度分の労働保険料を確定させ、今年度分の概算保険料を申告・納付する手続きです。

労働保険料は、毎月の給与からすぐに最終額が確定するものではありません。年度が終わってから、実際に支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算し、あわせて新年度分の概算保険料も申告します。

厚生労働省も、労働保険では保険年度ごとに概算で保険料を納付し、保険年度末に賃金総額が確定した後に精算する方法をとっていると説明しています。

令和8年度の労働保険の年度更新期間は、2026年6月1日から7月10日までと案内されています。申告書は、管轄の都道府県労働局や労働基準監督署への郵送、または電子申請でも提出できます。

従業員がいる会社がまず確認したいこと

労働保険の年度更新でまず確認したいのは、自社に労働保険の対象となる労働者がいるかです。

法人だから必ず年度更新が必要というより、判断の軸は「労働者を雇っているか」です。正社員だけでなく、パート・アルバイト・臨時の従業員も確認対象になります。

一方で、社長1人だけの法人や役員のみの法人では、一般的には労働保険の対象となる労働者がいないケースもあります。ただし、役員であっても実態として労働者性が問題になるケースなど、判断に迷う場合は個別確認が必要です。

年度更新で主に確認する項目は、次のとおりです。

確認項目 内容
対象期間の賃金総額 前年度に支払った給与・手当など
労災保険の対象者 労働者に該当する人の確認
雇用保険の対象者 雇用保険被保険者に該当する人の確認
保険料率 労災保険率・雇用保険率
今年度の概算賃金 新年度に見込まれる賃金総額
納付額 確定保険料と概算保険料の差額も含めて確認
納付期限 7月10日までの資金予定に反映

特に見落としやすいのは、「申告書を出すこと」だけに意識が向いて、納付後の資金繰りまで確認できていないケースです。

労働保険料は、従業員数が多い会社や、パート・アルバイトを多く雇っている会社ほど金額が大きくなりやすくなります。7月は、源泉所得税の納期の特例や社会保険料、賞与支給などと重なることもあるため、納付額だけでなく、納付後の預金残高も確認しておくことが大切です。

年度更新で見落としやすい3つのポイント

1. 賃金集計の範囲を間違えやすい

年度更新では、労働保険料の計算のもとになる賃金総額を確認します。ここで、基本給だけでなく、各種手当や賞与など、どこまでを賃金に含めるかを整理する必要があります。

給与ソフトや賃金台帳が整っていれば集計しやすいですが、手当の名称が会社独自だったり、パート・アルバイトの給与管理が別になっていたりすると、集計ミスが起こりやすくなります。

「去年も同じように出したから大丈夫」と考えるのではなく、従業員の増減、賃金改定、雇用形態の変更がなかったかを確認しましょう。

2. 労災保険と雇用保険で対象者が異なることがある

労働保険は労災保険と雇用保険の総称ですが、対象者の考え方は完全に同じではありません。

労災保険は、原則として労働者を1人でも雇っていれば関係します。一方、雇用保険は、所定労働時間や雇用見込みなどの要件を確認する必要があります。

そのため、年度更新では、単に従業員数を見るだけではなく、誰が労災保険の対象で、誰が雇用保険の対象なのかを分けて確認することが重要です。

3. 納付額が資金繰りに影響する

年度更新は、労務の手続きとして見られがちですが、実際には資金繰りにも関わります。

労働保険料の納付がある時期には、他にも次のような支払いが重なりやすくなります。

時期 会社で発生しやすい支払い
6月〜7月 労働保険料の年度更新
7月 源泉所得税の納期の特例
毎月 社会保険料、給与、家賃、借入返済
夏季 賞与支給、賞与に伴う社会保険料

利益が出ていても、納付や賞与、借入返済が重なると、預金残高が一時的に薄くなることがあります。

そのため、年度更新の時期には、申告書の作成だけでなく、7月以降の資金繰り表や月次試算表もあわせて確認することをおすすめします。

自社で整理しやすいケース・専門家に相談した方がよいケース

年度更新は、資料が整っていれば自社で進められるケースもあります。

たとえば、次のような会社は、自社でも比較的整理しやすいでしょう。

  • 賃金台帳が月別に整理されている
  • 給与ソフトで従業員別の賃金集計ができる
  • 雇用保険の加入者を把握できている
  • 昨年度から従業員構成が大きく変わっていない
  • 納付予定額を資金繰り表に反映できている

一方で、次のような場合は、一度専門家に確認した方が安心です。

  • パート・アルバイトが多く、対象者の判断に迷う
  • 役員や家族従業員の扱いが分かりにくい
  • 賃金台帳や給与データの整理が不十分
  • 従業員が増えて、前年より納付額が大きくなりそう
  • 7月以降の資金繰りに不安がある
  • 労務手続きと給与計算を社内だけで見るのが難しい

特に、従業員数が増えている会社では、年度更新だけでなく、算定基礎届、賞与支払届、社会保険料、源泉所得税などもあわせて確認する必要があります。

労務手続きは、1つひとつは小さく見えても、給与計算や資金繰りとつながっています。経理担当者だけで抱え込まず、会社全体の数字管理として整理することが大切です。

労働保険の年度更新は、月次管理と資金繰りの見直しにもつながる

労働保険の年度更新は、毎年の定例手続きです。

しかし、見方を変えると、会社の人件費や労務管理を見直す良いタイミングでもあります。

たとえば、次のような点を確認できます。

  • 従業員数が増えて、人件費がどれくらい増えているか
  • パート・アルバイトの給与総額が前年と比べてどう変わったか
  • 労働保険料の納付額が資金繰りにどれくらい影響するか
  • 給与計算や賃金台帳の管理に無理が出ていないか
  • 労務手続きと経理処理の連携ができているか

単に「7月10日までに申告・納付する」で終わらせるのではなく、年度更新をきっかけに、給与・労務・資金繰りの流れを見直すことが重要です。

月次の数字が早く整理できていれば、納付予定や資金不足の可能性にも早めに気づけます。反対に、月次試算表の作成が遅れていると、支払い直前になって資金繰りに慌てることもあります。

労働保険料は、会社の人件費に連動する支払いです。だからこそ、税務だけでなく、労務・給与計算・資金繰りを一体で見る視点が必要です。

よくある質問

Q1. 労働保険の年度更新は、法人なら必ず必要ですか?

法人だから必ず必要というより、労働者を雇っているかどうかが判断のポイントです。正社員だけでなく、パート・アルバイトなどを雇っている場合も確認が必要です。一方、社長1人だけの法人や役員のみの法人では、対象となる労働者がいないケースもあります。

Q2. 労働保険の年度更新はいつまでに行う必要がありますか?

令和8年度の年度更新期間は、2026年6月1日から7月10日までと案内されています。申告・納付の期限が近づくと確認が慌ただしくなりやすいため、賃金台帳や給与データは早めに整理しておくと安心です。

Q3. 労働保険料はどのように計算しますか?

基本的には、賃金総額に労災保険率と雇用保険率を掛けて計算します。厚生労働省の案内でも、賃金総額に労災保険率と雇用保険率を用いて労働保険料を計算する例が示されています。

Q4. 年度更新は社労士に相談した方がよいですか?

賃金台帳や対象者の整理ができていれば自社で進められる場合もあります。ただし、従業員数が増えている、パート・アルバイトが多い、対象者の判断に迷う、納付後の資金繰りが不安という場合は、社労士や税理士に確認した方が安心です。

まとめ

労働保険の年度更新は、労災保険・雇用保険に関する年1回の申告・納付手続きです。

従業員を雇っている会社では、前年度の賃金総額をもとに確定保険料を計算し、今年度分の概算保険料もあわせて申告・納付します。令和8年度の年度更新期間は、2026年6月1日から7月10日までです。

年度更新では、期限や申告書だけでなく、次の点も確認しておくことが大切です。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 賃金台帳や給与データの集計
  • 労災保険・雇用保険の対象者
  • 納付額と7月以降の資金繰り
  • 給与計算・労務手続き・経理処理の連携

ビジョン・ナビでは、税務だけでなく、社労士事務所と連携した労務・給与計算・社会保険手続きのご相談にも対応しています。

労働保険の年度更新をきっかけに、賃金集計や納付額、7月以降の資金繰りまで整理したい場合は、会社の状況に合わせて確認しておくと安心です。
「手続きは進めているけれど、対象者や賃金集計に不安がある」「納付後の資金繰りまで見ておきたい」という場合は、ビジョン・ナビまでお気軽にご相談ください。

吉本亘
執筆者:吉本亘
吉本亘(よしもととおる)税理士法人ビジョン・ナビ所属。入社以来、税理士補助として中小企業・個人事業主の月次処理や決算・申告関連のサポート業務に携わる。数字を「経営判断に使える形」に整えることを意識し、実務の現場で起こりやすい勘違いやつまずきポイントを、わかりやすく整理して伝えることを重視している。現在は業務と並行して、事務所ブログの企画・改善にも取り組んでいる。