パート・アルバイトが増えて人件費管理に悩む中小企業の経営者と経理担当者が、オフィスでシフト表、給与一覧、社会保険料の試算表、月次試算表を確認している今風のビジネス向けイラスト。

パートが増えて人件費が読めない会社へ|社会保険料・シフト・月次管理を見直す方法

吉本亘

吉本亘

パート・アルバイトを増やしている会社では、人件費の見え方が少しずつ複雑になります。

最初は、

「時給はいくらか」
「週に何時間働くか」
「シフトを何人で回すか」

を見ていれば、ある程度の人件費は把握できるかもしれません。

しかし、パートの人数や勤務時間が増えてくると、単純に時給と労働時間だけでは人件費を読みにくくなります。

たとえば、

  • 社会保険に加入する人が増える
  • 会社負担の社会保険料が増える
  • シフト調整が複雑になる
  • 扶養の範囲を気にして勤務時間を抑える人が出る
  • 賞与や手当をどう設計するか迷う
  • 人件費率が上がって粗利を圧迫する
  • 給与計算や入退社手続きの負担が増える
  • 月次の数字を見るまで、人件費の増加に気づきにくい

という状態が起こりやすくなります。

特に、106万円の壁や社会保険の適用拡大が話題になる中で、パート・アルバイトを多く雇う会社では、今後の人件費をどう見込むかが重要になります。

106万円の壁や社会保険加入の基本を先に確認したい場合は、まずビジョン・ナビの既存記事で制度の全体像を確認しておくと整理しやすくなります。

関連記事:
【2026年10月の106万円の壁撤廃で人件費はいくら増えるパート10人の会社負担と資金繰りをモデルケースで解説】

この記事では、106万円の壁の基本や、パート・アルバイトが社会保険に加入する条件、会社側が確認しておきたいポイントを整理しています。

今回の記事では、その次の段階として、パートが増えた会社が人件費・社会保険料・シフト・月次管理をどう見直すかを解説します。

106万円の壁は、従業員本人だけでなく会社側にも影響する

106万円の壁というと、従業員本人の手取りや扶養の話として捉えられがちです。

もちろん、本人にとっては、

  • 社会保険に加入するのか
  • 手取りが減るのか
  • 扶養の範囲に収まるのか
  • もっと働くべきか、勤務時間を抑えるべきか

という点が大きな関心になります。

ただし、会社側にとっても無関係ではありません。

パート・アルバイトが社会保険に加入すると、会社にも健康保険料や厚生年金保険料などの負担が発生します。

つまり、同じ時給・同じ労働時間でも、社会保険加入の有無によって、会社側の実質的な人件費は変わります。

厚生労働省は、従業員数50人超の企業で週20時間以上勤務する場合、所定内賃金が月額8.8万円以上、年収換算で約106万円になると厚生年金保険・健康保険に加入すると説明しています。なお、ここでいう従業員数は、企業の厚生年金保険の適用対象者数、つまり被保険者数で判断されます。

また、令和7年の年金制度改正法により、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件は、最低賃金の状況を踏まえて撤廃される予定です。企業規模要件についても、段階的に縮小・撤廃されることになっています。

そのため、パートを多く雇う会社では、今の制度だけでなく、今後の適用拡大も見据えて人件費を確認しておく必要があります。

パートが増えた会社で人件費が読みにくくなる理由

パートが増えて人件費が読めなくなる理由は、単に人数が増えるからではありません。

実際には、次のような要素が重なってきます。

1. 社会保険料の会社負担が増える

パートが社会保険に加入すると、会社側にも社会保険料の負担が発生します。

ここを見落としていると、

「給与は想定内だったのに、会社負担まで含めると人件費が重い」
「パートを増やしたら、思ったより利益が残らない」
「社会保険料込みの人件費率を見ていなかった」

という状態になりやすくなります。

人件費を見るときは、給与の支給額だけでなく、会社負担分の社会保険料まで含めて確認することが大切です。

2. シフト調整で現場と経理の見方がズレる

パート・アルバイトが多い会社では、現場は「人が足りるか」を重視します。

一方で、経営側や経理側は「人件費が利益を圧迫していないか」を見なければなりません。

この2つがつながっていないと、

  • 現場判断でシフトが増える
  • 給与計算の段階で人件費増加に気づく
  • 月次試算表で初めて利益低下が見える
  • 社長が資金繰りを見て慌てる

という流れになりがちです。

大切なのは、シフトを組む段階で、ある程度の人件費見込みを持つことです。

たとえば、

  • 今月の売上見込み
  • 必要な人員数
  • 総労働時間
  • 社会保険加入者数
  • 人件費率
  • 粗利とのバランス

を月次で確認できると、シフトと利益の関係が見えやすくなります。

3. 扶養や年収の壁を意識した働き方が発生する

パート本人が年収の壁を意識している場合、年末に近づくほど勤務時間の調整が発生しやすくなります。

厚生労働省は、年収が一定額を超えると社会保険料の負担が発生し、その分手取り収入が減少するため、これを避ける目的で就業調整する人がいると説明しています。

会社側から見ると、これは単なる従業員本人の問題ではありません。

たとえば、

  • 年末に急にシフトに入れない人が増える
  • 特定の人に業務が偏る
  • 新しく人を採用する必要が出る
  • 教育コストが増える
  • 給与計算や契約変更が増える

といった影響が出ることがあります。

だからこそ、パート比率が高い会社では、年収の壁や社会保険加入の話を、単なる制度解説ではなく、人員計画と月次管理の問題として見る必要があります。

4. 賞与・手当・時給改定で人件費がぶれやすい

パート・アルバイトにも賞与や手当を支給している会社では、人件費がさらに読みにくくなります。

毎月の時給だけを見ていると、賞与月や繁忙期の手当、交通費、残業代などを含めた人件費を見落としやすくなります。

特に、

  • 夏・冬に賞与や寸志がある
  • 繁忙期にシフトが増える
  • 土日祝の時給を上げている
  • 人手不足で時給改定をしている
  • 採用のために手当を増やしている

という会社では、月ごとの人件費に波が出やすくなります。

そのため、人件費は「毎月同じくらい」と考えるのではなく、年間で見込むことが大切です。

5. 月次試算表が出るころには判断が遅れている

人件費の増加に気づくのが、月次試算表が出た後になっている会社もあります。

もちろん、月次試算表を見ること自体は大切です。

ただし、試算表が出るのが遅い場合、

  • 人件費が増えていた
  • 粗利が下がっていた
  • 社会保険料が重くなっていた
  • 資金繰りが苦しくなっていた

と分かった時点で、すでに翌月のシフトや支払いが進んでいることがあります。

人件費が読めない会社では、月次試算表を作るだけでなく、経営判断に使えるタイミングで数字を見ることが重要です。

人件費を見るときは「給与」ではなく「総人件費」で見る

パートが増えている会社では、給与だけを見ていると判断を誤りやすくなります。

見るべきなのは、給与支給額だけではなく、総人件費です。

総人件費として確認したい項目には、たとえば次のようなものがあります。

項目 確認する理由
基本給・時給 毎月の人件費の中心になる
残業代 繁忙期や人手不足の影響が出やすい
賞与・寸志 月によって人件費が大きく増える
通勤手当 人数が増えると積み上がる
社会保険料の会社負担 加入者が増えると負担も増える
労働保険料 年度更新や概算保険料にも影響する
採用費・教育費 人の入れ替わりが多い会社ほど重くなる

このように、人件費は給与明細に出ている金額だけではありません。

パートが増えている会社ほど、総人件費で見たうえで、売上や粗利とのバランスを確認する必要があります。

月次で確認したい5つの順番

パートが増えて人件費が読めない会社では、月次で見る順番を決めておくと整理しやすくなります。

1. 売上見込みと必要人員を確認する

まずは、売上見込みと必要人員を確認します。

人件費は売上と切り離して考えることはできません。

売上が増える見込みがあるから人を増やすのか。
売上は変わらないけれど、人手不足で人を増やすのか。

ここによって、人件費の見方は変わります。

2. 総労働時間を見る

次に、人数ではなく総労働時間を見ます。

パートが10人いる会社でも、それぞれ週10時間なのか、週25時間なのかで人件費は大きく変わります。

見るべきなのは、

  • 人数
  • 時給
  • 週の労働時間
  • 月の総労働時間
  • 社会保険加入の可能性

です。

人数だけでなく、労働時間で見ることが大切です。

3. 社会保険加入者と会社負担を見る

次に、社会保険に加入している人、今後加入対象になりそうな人を確認します。

短時間労働者の社会保険適用については、企業規模や労働時間、賃金要件などの条件があります。現在の制度に加えて、今後は賃金要件や企業規模要件の見直しも進むため、パートが多い会社では継続的な確認が必要です。

なお、学生は被用者保険の加入対象外とされています。学生アルバイトが多い会社では、一般のパート・アルバイトとは分けて確認しましょう。

ここを月次で見ておくと、

  • 今月から会社負担が増える人
  • 今後加入対象になりそうな人
  • シフト変更で加入条件に近づく人
  • 年間の人件費に影響する人

を把握しやすくなります。

4. 粗利に対して人件費が重くなっていないか見る

人件費は、売上ではなく粗利との関係で見ることが大切です。

売上が増えていても、仕入や材料費が上がって粗利が減っている場合、人件費の負担は重くなります。

たとえば、飲食業や小売業、美容業、介護・福祉、宿泊業などでは、パート・アルバイトの人件費が粗利に対して重くなりやすいことがあります。

確認したいのは、

  • 粗利額
  • 粗利率
  • 総人件費
  • 人件費率
  • 社会保険料込みの人件費
  • 前年同月との比較

です。

「売上があるから大丈夫」ではなく、粗利の中で人件費をどれだけ使っているかを見る必要があります。

5. 資金繰りと税金・社会保険料などの支払い予定を確認する

最後に、資金繰りと支払い予定を確認します。

人件費が増えると、給与支払いだけでなく、会社負担の社会保険料や労働保険料、給与から預かる源泉所得税・住民税の管理にも影響します。

さらに、利益が出ている会社では、消費税や法人税などの納付も資金繰りに影響します。

そのため、月次では、

  • 給与支払い
  • 会社負担の社会保険料
  • 労働保険料
  • 源泉所得税・住民税の管理
  • 消費税・法人税の見込み
  • 借入返済

まで含めて確認できると安心です。

人件費は、損益だけではなく資金繰りにも影響します。

助成金・支援策は「使えるか」だけでなく「人件費設計」と一緒に見る

年収の壁への対応では、事業主向けの助成金や支援策も用意されています。

厚生労働省は、年収の壁への対応として、短時間労働者が年収の壁を意識せず働ける環境づくりを支援しており、キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」では、労働者を新たに被用者保険に適用させるとともに、収入増加の取組を行った事業主への助成を行うと説明しています。

ただし、助成金は「もらえるかどうか」だけで判断しない方がよいです。

実際に助成金を利用できるかどうかは、対象労働者や取組内容などの要件確認が必要です。

本当に見たいのは、

  • 助成金がなくなった後も人件費を払えるか
  • 社会保険料込みで利益が残るか
  • シフトをどう設計するか
  • どの人に長く働いてもらいたいか
  • 月次で人件費の増加を追えるか

です。

一時的な支援策と、継続的な人件費設計は分けて考える必要があります。

パートが増えている会社で見直したい経理・月次管理

パートが増えている会社では、給与計算や社会保険手続きだけでなく、経理・月次管理の体制も重要になります。

たとえば、次のような状態がある場合は注意が必要です。

  • 給与計算の結果を見て初めて人件費増加に気づく
  • 社会保険料込みの人件費を月次で見ていない
  • シフトと売上・粗利が連動していない
  • 試算表が出るのが遅く、経営判断に使えていない
  • 経理担当者が入力作業で手一杯になっている
  • 税理士とのやり取りが決算・申告中心になっている
  • 社長が感覚で人件費を判断している

このような状態では、人件費が増えても気づくのが遅れやすくなります。

大切なのは、給与計算、社会保険料、月次試算表、資金繰りを別々に見るのではなく、つなげて見ることです。

給与計算・経理が社内だけで回らなくなってきた場合

ここまで見てきたように、パートが増えると、人件費の管理だけでなく、給与計算・経理・月次管理の負担も大きくなります。

特に、

「給与計算や入退社対応に時間がかかっている」
「経理担当者が1人で、毎月の処理だけで手一杯になっている」
「月次の数字が遅く、人件費や社会保険料の増加に気づくのが遅れている」
「税理士にどこまで相談すべきか分からない」

という場合は、経理体制や税務顧問との関わり方を見直すタイミングかもしれません。

このテーマについては、次の記事で詳しく整理する予定です。

関連記事:
パートが増えて給与計算・経理が回らない会社へ|月次管理と税務顧問を見直すタイミング

この記事では、パート・アルバイトが増えた会社が、給与計算・経理・月次管理を社内だけで抱えるべきか、税理士や外部サポートとどのように役割分担すべきかを整理します。

税理士に相談するなら、人件費が増え始めた段階で

人件費の問題は、決算直前に見ても対策が限られます。

決算時に、

「思ったより利益が残っていない」
「社会保険料込みで見ると人件費が重かった」
「消費税や法人税の納付資金が足りない」
「パートを増やしたのに、粗利が伸びていなかった」

と分かっても、すでに過去のシフトや給与支払いは変えられません。

だからこそ、パートが増え始めた段階で、月次の数字を見ながら判断することが大切です。

税理士に相談するときも、単に申告書を作ってもらうだけではなく、

  • 人件費率
  • 粗利率
  • 社会保険料込みの総人件費
  • 納税見込み
  • 資金繰り
  • 経理体制

まで相談できると、経営判断に使いやすくなります。

まとめ

パートが増えると、人件費は「時給×労働時間」だけでは読みにくくなります。

社会保険料の会社負担、賞与や手当、シフト調整、年収の壁への対応、採用費や教育費、税金・社会保険料などの支払い、資金繰りまで含めて考える必要があります。

特に、106万円の壁や社会保険の適用拡大をきっかけに、今後はパート・アルバイトの働き方や会社負担を見直す会社が増えていくと考えられます。

人件費を見るときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

  1. 売上見込みと必要人員
  2. 総労働時間
  3. 社会保険加入者と会社負担
  4. 粗利に対する人件費
  5. 資金繰りと支払い予定

税理士法人ビジョン・ナビでは、税務申告だけでなく、月次の数字をもとにした人件費管理、資金繰り、経理体制の整理もサポートしています。

「パートが増えて、人件費が読みにくくなっている」
「社会保険料込みで利益が残るか不安」
「月次の数字を経営判断に使える状態にしたい」
「給与計算・経理・税務顧問をバラバラに見ていて、全体像が分かりにくい」

このようなお悩みがある場合は、まずは自社の人件費と月次の数字を整理するところから始めてみてください。

自社だけで整理するのが難しい場合は、税理士法人ビジョン・ナビまでお気軽にご相談ください。

 

吉本亘
執筆者:吉本亘
吉本亘(よしもととおる)税理士法人ビジョン・ナビ所属。入社以来、税理士補助として中小企業・個人事業主の月次処理や決算・申告関連のサポート業務に携わる。数字を「経営判断に使える形」に整えることを意識し、実務の現場で起こりやすい勘違いやつまずきポイントを、わかりやすく整理して伝えることを重視している。現在は業務と並行して、事務所ブログの企画・改善にも取り組んでいる。